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車が走るまでに何をしているか

見る、位置を知る、読む、決める、動かす。この5つの流れ。

一言でいうと

車は「見る→自分の位置を知る→周りの動きを読む→どう動くか決める→実際に動かす」という順に仕事をしている。

この5つのどこか1つでも欠けると走れない。ベンダーの説明が、この流れのどこの話なのかを見分けられるようにするのがこのページの目的である。

何を解決するために分けるのか

自動運転を作るとき、全部を一度に作ることはできない。だから仕事を段に分ける。分けることで、各段を別々に試験でき、うまくいかないときにどこが悪いのかを切り分けられる。

この分け方は、2007年の DARPA Urban Challenge に参加したチームの論文で具体的に文書化されている。たとえばカーネギーメロン大学の車両は、経路の計画・挙動の選択・軌道の生成という三層の構成を採っていた。

現在の教科書的な整理では、経路計画・挙動選択・軌道生成・フィードバック制御という階層に分解される。

見る、位置を知る、読む、決める、動かす、の5つの箱が左から右へ矢印でつながった処理フロー図見るセンサで周囲をとらえる位置を知る自分がどこにいるかを決める読む他者がどう動くかを見積もる決めるどう動くかを選ぶ動かす操舵・加減速を実行するこの5つのどれか1つが欠けても走れない。ベンダーの説明がどこの話かを見分ける。
図:車が走るまでにしている5つの仕事。左から右へ順に処理が進む。提案書の説明がこの流れのどこを指しているのかを確認する。

①見る(センシング)

周囲に何があるかを測る。使われるセンサは主に4種類で、それぞれ物理的に測っているものが違う。

表:主なセンサが物理的に測っているもの。得意と不得意は、この原理から決まる。
センサ何を測るか得意弱い条件
LiDAR自ら出したレーザーが戻る時間から距離距離を直接測れる。形が分かる霧・雪。自分の出した光が粒子で散乱して自分のノイズになる
カメラ周囲の光の反射(受動)色と文字が読める。標識や信号が分かる逆光・夜間。距離は直接測れない
ミリ波レーダー電波の往復時間と、ドップラー効果による相対速度速度を直接測れる。波長が長く霧雨を透過しやすい細かい形が分からない
赤外・熱物体自身が出す熱照明がいらない。人や動物を捉えやすい気温が体温に近いと差が出にくい

悪条件での性能低下は、査読論文で測定されている。人工の霧と雨を作ったチャンバー試験では、LiDARの検知性能が約50%低下したという報告がある。別の研究は、パルス式のLiDARが後方散乱によって有効距離が20m未満に制限されると記述している。これらは特定の機種と条件下の値であり、一般化はできない

詳しくはセンサフュージョンで扱う。

②自分の位置を知る(測位)

周囲が見えても、自分がどこにいるか分からなければ、どこへ進むか決められない。手段は大きく3つある。

衛星測位が弱い場所と、自動運転が難しい場所は一致している

米国政府はGPSの精度について、建物・橋・樹木の近くで悪化すると明記している。査読論文は、香港の都市峡谷での実測でGNSS-RTKの誤差が平均1.83m、最大30mに達したと報告している。

つまり開けた場所で得られた精度の数値は、市街地やトンネルでの性能の根拠にはならない。提示された精度がどの条件で測られたものかを確認する必要がある。

③周りの動きを読む(認識と予測)

何があるかを検出し、それを追跡し、次にどう動くかを見積もる。ここで重要なのは、予測は必ず外れるという前提で設計されていることである。

交差点に近づく車は、直進するかもしれないし右折するかもしれない。この2つは互いに排他的で、平均を取ると誰も走らない軌道になる。だから現在の手法は、複数の可能性とそれぞれの確からしさを同時に出す。

ある研究は、あらかじめ用意した実行可能な軌道の集合の中から選ぶという方法で、この問題を構造的に回避している。

④どう動くか決める(判断と計画)

周囲の理解をもとに、次の数秒でどう動くかを決める。方法は大きく2系統ある。

どちらが優れているかは決着していない。詳しくはルールベースと最適化で扱う。

⑤実際に動かす(制御と車両)

決めた軌道どおりに操舵と加減速を行う。ここで問われるのは制御の精度だけではない。何かが壊れたときに止まれるかである。

操舵、制動、電源、計算機、通信。このどれかが失われたときに、車が安全な状態に達せられるように系統を二重以上に持たせる設計を冗長化と呼ぶ。「冗長化しています」と言われたら、何を二重にしたのかを確認する

この5つの外側にあるもの

上の5つは車の中の話である。実際の運行にはこれ以外が必要になる。

提案書では車の中の話が中心になりやすい。費用と手間の多くは、外側にある

発注・検討するときの確認点

  1. 「いまのご説明は、5つの仕事のうちどれの話ですか」

    なぜこれを聞くのか
    「AIが認識します」という説明が、見る話なのか決める話なのかで、確認すべきことがまったく違う。
  2. 「5つのうち、どれが最も苦手ですか」

    なぜこれを聞くのか
    すべての方式に苦手な段がある。答えられないなら、自社システムの限界を把握していない可能性がある。
  3. 「提示された精度の数値は、どの条件で測ったものですか」

    なぜこれを聞くのか
    開けた場所での測位精度と、市街地での測位精度は一桁以上違いうる。

出典

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  1. Urmson, C. ほか/Journal of Field Robotics 25(8):425–466(査読誌)Autonomous driving in urban environments: Boss and the Urban Challenge(mission / behavioral / motion の三層プランニング)2008年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://publications.ri.cmu.edu/autonomous-driving-in-urban-environments-boss-and-the-urban-challenge
  2. Paden, B. ほか/IEEE Transactions on Intelligent Vehicles 1(1):33–55(査読誌)A Survey of Motion Planning and Control Techniques for Self-Driving Urban Vehicles(経路計画・挙動選択・軌道生成・フィードバック制御の階層分解)2016年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://ieeexplore.ieee.org/document/7490340/
  3. 米国 国家宇宙利用測位・航法・計時調整室(GPS.gov)GPS Accuracy(GPSの性能標準。全世界平均ユーザ距離誤差2.0m以下・確率95%。建物・橋・樹木による遮断とマルチパスで悪化)参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.gps.gov/gps-accuracy
  4. Wen, W. ほか/NAVIGATION: Journal of the Institute of Navigation, Vol.70 No.3(査読誌)3D Vision Aided GNSS Real-Time Kinematic Positioning for Autonomous Systems in Urban Canyons(都市峡谷でのGNSS-RTK誤差は平均1.83m・標準偏差2.01m・最大30m)2023年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://navi.ion.org/content/70/3/navi.590
  5. 準天頂衛星システムサービス株式会社QZSS Service Performance Report for 2ndH FY2024(CLAS。12評価エリアの95パーセンタイル値。静止 水平1.7〜3.5cm、移動 水平5.2〜14.3cm)2025年7月25日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://sys.qzss.go.jp/serv_report/CLA/Service%20performance%20report_for_2ndH_FY2024_CLAS.pdf
  6. Bijelic, M. ほか/CVPR 2020(査読会議)Seeing Through Fog Without Seeing Fog: Deep Multimodal Sensor Fusion in Unseen Adverse Weather(濃霧でLiDAR単体の検出APが大きく低下。パルス式LiDARは後方散乱により有効距離が20m未満に制限されると記載)2020年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://openaccess.thecvf.com/content_CVPR_2020/papers/Bijelic_Seeing_Through_Fog_Without_Seeing_Fog_Deep_Multimodal_Sensor_Fusion_CVPR_2020_paper.pdf
  7. Kutila, M. ほか/IEEE ITSC 2018(査読会議)Automotive LiDAR performance verification in fog and rain(人工霧・雨のチャンバー試験で検知性能の約50%低下を観測)2018年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://cris.vtt.fi/ws/files/33650663/Automotive_LiDAR_performance.pdf
  8. Phan-Minh, T. ほか/CVPR 2020(査読会議)CoverNet: Multimodal Behavior Prediction Using Trajectory Sets(連続空間の回帰を軌跡集合上の分類に置き換え、モード平均化を構造的に回避する)2020年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://openaccess.thecvf.com/content_CVPR_2020/papers/Phan-Minh_CoverNet_Multimodal_Behavior_Prediction_Using_Trajectory_Sets_CVPR_2020_paper.pdf
  9. 愛知製鋼株式会社GMPS(Global Magnetic Positioning System)。磁気マーカとMIセンサによる自車位置検知。位置検出精度±5mm、時速200kmまで追従、設置間隔2m〜10mの実績参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.aichi-steel.co.jp/smart/mi/gmps/
  10. RoAD to the L4(経済産業省・国土交通省)【福井県永平寺町】遠隔監視のみ(レベル4)自動運転サービス(車両ヤマハAR-07・定員7名・最高12km/h以下、電磁誘導線とRFID、遠隔監視1名が最大3台、運行47日・延べ1,700km・乗客1,168名)2024年2月28日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/theme01/pdf/20240228_theme01.pdf

最終更新日:2026年7月30日。このページの記述は同日時点で確認したものである。

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