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ルールベースと最適化

挙動の理由を人が説明できる。書き漏らした状況には対応できない。

一言でいうと

「この状況ではこうする」を人が書き並べる方式と、複数の条件を数式にして最も良い動きを計算する方式である。

挙動の理由を人が説明できるという強みがある。一方で、書き漏らした状況には対応できない。

何を解決するために生まれたか

車がどう動くかを決めるには、何らかの基準が要る。最も直接的なのは、人が基準を書くことである。

この方式が生まれた背景には、検証の要請がある。事故が起きたとき、なぜその挙動になったのかを説明できなければ、原因を特定できず、対策も立てられない。説明できることは、それ自体が設計の目的である

仕組み

手法は査読サーベイで体系的に分類されている。主なものを挙げる。

表:人が基準を書く方式の主な手法。
手法考え方
有限状態機械「車線追従中」「追い越し中」といった状態を定義し、状態遷移の条件を書く
行動木行動を木構造で組み立てる。有限状態機械に対して、モジュール性と再利用性の利点が論じられている
コスト関数の最適化望ましさを数式にして、最も良い軌道を計算する
モデル予測制御先の数秒を予測しながら、制約を守りつつ最適な入力を計算し続ける
サンプリングベース候補となる軌道を多数生成して選ぶ。RRTとその改良が代表的で、収束性を持つ改良版が査読誌で示されている

実車での実証例として、2014年に査読誌で報告された103kmの自律走行がある。軌道は連続最適化で生成され、コスト関数は横方向のオフセット・速度追従・加速度・ジャーク・ヨーレートの5項の重み付き和で構成されていた。制約として走行回廊の境界、静止・移動物体の衝突回避、車両の運動学(低速では操舵の幾何、高速では摩擦の限界)が課されていた。

著者自身が限界を明記している

この論文は、成果を示すと同時に次のように述べている。「全体の挙動は、注意深い人間ドライバーの水準にははるかに及ばない」。加えて、50m超の信号認識の精度、および手作りの高精度地図への強い依存と、地図生成の規模拡大が課題であるとしている。

できること/できないこと

できること

  • 挙動の理由を条文の水準で説明する
  • 規制当局・保険・事故調査に対して、根拠を示して応答する
  • ルールの追加・修正を局所的に行い、影響範囲を限定する
  • 衝突回避や運動学の限界を、数学的な制約として保証する

できないこと

  • 書き漏らした状況に対応すること。動作が未定義になるか、過度に保守的になる
  • ルール数が増えたときの相互作用を、人が把握し続けること
  • モデル化していない現象に対して保証を与えること。保証は「モデル化された世界」の中でのみ成立する
  • 人間らしい自然な挙動を、書き並べで再現すること

トレードオフ

この方式は、説明可能性と局所的な修正可能性を得る代わりに、網羅性を人手に依存する

ルールを増やせば対応できる状況は増えるが、ルール同士の相互作用が組み合わせ的に増え、保守が難しくなる。この限界が、学習ベースの計画を生んだ動機になっている。

実際に使われている例

閉ループの評価では、古典的な手法が最先端の学習手法を上回った

CoRL 2023 で発表された査読論文が、公開ベンチマークで次を報告している。

  • 開ループの評価と閉ループの評価は、整合するどころか負の相関を示した。
  • 20年以上前に確立されたルールベースの計画のベースラインが、閉ループの評価では当時の全ての最先端の学習ベース手法を上回った。
  • 学習ベースは自車の軌道の予測(開ループ)に強く、閉ループの安全性に弱い。ルールベースはその逆だった。
  • 両者を組み合わせた手法が、同年のチャレンジで優勝している。

ここで重要なのは、これが「どちらが優れているか」の対立ではなく「何を測っているか」の対立であることである。開ループの評価は記録データに対する軌道の再現を測る。閉ループの評価はシミュレータの中で自車が実際に動く。この違いが結果を逆転させる。

安全保証の観点

安全論証の既存の枠組みは、要件を段ごとに分解し、その積み上げで全体を論じる形式を採る。ルールベースの計画は、この形式と相性がよい。

公表されている安全論証の枠組みを見る。ハザードを「アーキテクチャ上のもの」「挙動上のもの」「運用上のもの」の三層に分解する。そのうえで ISO 26262 と ISO 21448 にマッピングし、受け入れ基準を定義する構成である。この形式の論証は、挙動を生む要因を人が名指しできることを前提としている

ただし注意が要る。現代のシステムでは認識段がほぼ全て深層学習である。「ルールベースだから説明できる」という主張は、正確には計画段について成り立つ主張であって、システム全体についてではない。

発注・検討するときの確認点

  1. 「計画モジュールの評価は開ループですか、閉ループですか。両方の数値を出せますか」

    なぜこれを聞くのか
    査読論文が、開ループと閉ループの評価が負の相関を示すことを報告している。開ループの数値だけでは閉ループの安全性を保証しない。
  2. 「ルールや制約は何件あり、それぞれの導入理由(どのインシデントや要件に対応するか)が追跡できる形で管理されていますか」

    なぜこれを聞くのか
    ルールが増えるほど相互作用が増える。追跡できなければ、修正の影響範囲が読めない。
  3. 「コスト関数の重みは誰がどう決め、変更したときの安全への影響をどう再評価しますか。変更履歴は残っていますか」

    なぜこれを聞くのか
    重みの変更は挙動を変える。履歴がなければ、契約時の前提が何だったのかを後から確認できない。

混同されやすい用語

表:このページで扱った語と、混同されやすい語。詳しい定義は用語集にある。
この語別のこの語違い
ルールベース最適化ベース前者は条件と行動の対応を書く。後者は望ましさを数式にして計算する。どちらも人が基準を書く点は同じ
説明できる安全である説明できることは検証を可能にするが、それ自体が安全の証明ではない
開ループ評価閉ループ評価前者は記録データに対する軌道の再現、後者はシミュレータ内で自車が実際に動く。負の相関が報告されている

出典

一次情報を優先している。「区分」は、その資料が発行機関自身の公表物(一次)か、第三者による索引・複製(ミラー)か、解説(二次)かを示す。リンク切れに備え、発行者・文書名・日付を本文でも残している。

  1. Paden, B. ほか/IEEE Transactions on Intelligent Vehicles 1(1):33–55(査読誌)A Survey of Motion Planning and Control Techniques for Self-Driving Urban Vehicles(経路計画・挙動選択・軌道生成・フィードバック制御の階層分解)2016年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://ieeexplore.ieee.org/document/7490340/
  2. Ziegler, J. ほか/IEEE Intelligent Transportation Systems Magazine 6(2):8–20(査読誌)Making Bertha Drive — An Autonomous Journey on a Historic Route(103kmの自律走行。連続最適化による軌道生成。著者自身が「全体の挙動は注意深い人間ドライバーの水準にはるかに及ばない」と明記)2014年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.mrt.kit.edu/z/publ/download/2014/ZieglerAl2013ITSMag.pdf
  3. Dauner, D. ほか/CoRL 2023(査読会議)Parting with Misconceptions about Learning-based Vehicle Motion Planning(開ループ評価と閉ループ評価が負の相関を示す。20年以上前に確立されたルールベースのベースラインが閉ループで当時の全ての最先端学習手法を上回った)2023年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://proceedings.mlr.press/v229/dauner23a.html
  4. Urmson, C. ほか/Journal of Field Robotics 25(8):425–466(査読誌)Autonomous driving in urban environments: Boss and the Urban Challenge(mission / behavioral / motion の三層プランニング)2008年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://publications.ri.cmu.edu/autonomous-driving-in-urban-environments-boss-and-the-urban-challenge
  5. Waymo(企業公式ホワイトペーパー)Waymo Safety Case Approach(ハザードをアーキテクチャ・挙動・運用の三層に分解し、ISO 26262/ISO 21448にマッピング)2023年3月/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://storage.googleapis.com/waymo-uploads/files/documents/safety/Waymo%20Safety%20Case%20Approach.pdf
  6. Kuznietsov, A. ほか/IEEE T-ITS(査読誌)Explainable AI for Safe and Trustworthy Autonomous Driving: A Systematic Review(モジュール型のほうが誤りの発生源を追跡しやすい。重要度を実際の因果と混同してはならないと警告)2024年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://dl.acm.org/doi/10.1109/TITS.2024.3474469
  7. 国際標準化機構(ISO)ISO 26262-1:2018 Road vehicles — Functional safety(第2版。第3版が改訂作業中)2018年12月17日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.iso.org/standard/68383.html
  8. 国際標準化機構(ISO)ISO 21448:2022 Road vehicles — Safety of the intended functionality(SOTIF)2022年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.iso.org/standard/77490.html
  9. Ross, S. ほか/AISTATS 2011(査読会議)A Reduction of Imitation Learning and Structured Prediction to No-Regret Online Learning(模倣学習の分布シフト。専門家が訪れなかった状態で誤差が二乗的に累積することを示す)2011年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://proceedings.mlr.press/v15/ross11a.html
  10. de Haan, P. ほか/NeurIPS 2019(査読会議)Causal Confusion in Imitation Learning(より多くの情報を観測に与えるほど性能が悪化しうる現象を示す)2019年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://proceedings.neurips.cc/paper/2019/hash/947018640bf36a2bb609d3557a285329-Abstract.html

最終更新日:2026年7月30日。このページの記述は同日時点で確認したものである。

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