GREEN TECHNOLOGY. BLUE

G0 経路教示・仮想レール型

教えた1本の経路を精密に辿る。逸脱しないことが安全の根拠になる。

一言でいうと

あらかじめ人が1本の道筋を教え、車はそこから外れないように正確に辿る。外れないことそのものが安全の仕組みになっている。

この考え方の車は、いまも日本の公道と構内で人を運んでいる。

何を解決するために生まれたか

「どこを走るか」と「前に何があるか」は別の問題である。この世代の設計は、前者を設計時に解いてしまうことで、走行時に解くべき問題を減らした。

経路が固定されていれば、位置推定の不確かさは極端に小さくなる。カメラが逆光で見えなくても、LiDARが霧で使えなくても、路面に埋めたマーカーは変わらずそこにある。環境の変化に強いのはこのためである。

仕組み

誘導の方式は主に2つある。

表:日本で使われている2つの誘導方式(2026年7月30日時点で公表されている情報)。
方式仕組み公表されている速度域
電磁誘導線路面に敷いた線に通電し、その磁界を車が検出して辿る。RFIDを併用して区間を識別する福井県永平寺町の事例で最高12km/h以下
磁気マーカー路面に埋めた磁石が出す微弱な磁気を、車底の高感度センサが検出する。RFIDを併用する気仙沼線BRTの専用道で最高約60km/h

磁気マーカー方式について、開発企業は位置検出精度を±5mm、時速200kmまで追従可能と公表している。設置間隔は初期の実証で2m間隔が多く、直線の高速走行部では10m間隔の実績もあるとしている。磁力については半永久的と考えていると記載し、水も氷も物理的に影響がなく積雪時も機能すると説明している。

公表されている運用例を挙げる。JR東日本は2026年5月8日、気仙沼線BRTでレベル4走行を実施すると発表した。区間は専用道の約15.5km、最高速度は約60km/hである。磁気マーカーを約2mごと、RFIDを約10mごとに埋設している。

経路教示、HD地図、クラウドソース地図、マップレスを左から右に並べ、事前情報の多さと少なさを対比した比較図経路教示1本の線だけを事前に教えるHD地図車線・標識を数cm精度で持つクラウドソース地図走行車両が軽量な地図を作るマップレス高精度地図を用意しない事前情報が多い現地の作業と更新が要る事前情報が少ないその場のセンサに頼る「地図がいらない」と言うとき、この軸のどこにいるのかを確認する。
図:地図への依存度は、あるかないかの二択ではなく連続している。左へ行くほど事前の作業と更新の負担が増え、右へ行くほど走行時のセンサへの依存が増える。

できること/できないこと

この方式でできること

  • 自分がどこにいるかを、天候に左右されずに知る
  • トンネル・地下など衛星測位が届かない場所での走行
  • 積雪や霧でカメラ・LiDARが機能しない条件での位置保持
  • 挙動が予測しやすく、住民説明がしやすい
  • 認可・許可の取得が比較的しやすい(国内のレベル4事例はこの系統が中心)

この方式でできないこと

  • 敷設していない経路を走ること
  • 経路を変えること(物理的な工事が必要になる)
  • 前方の障害物を避けること。位置は分かっても、前に何があるかは別の問題である
  • 路上駐車や除雪した雪を回避すること。停止または手動介入になる

この方式が確実にしているのは「自分がどこにいるか」であって「前に何があるか」ではない

国土交通省道路局が公表した実証の集計に、次の数値がある。路上駐車に遭遇した183回のうち169回が回避困難積雪に遭遇した55回のうち41回が幅員の減少により停止

国土技術政策総合研究所の報告も、同様の課題を挙げている。除雪した雪が走路の障害になること。沿道の植栽や雑草を検知して停止すること。路上駐車車両を検知して停止または手動回避になること。

つまり経路を固定しても、経路上の障害物の問題は残る。ここを混同すると、運休の頻度を見誤る。

トレードオフ

この方式は、経路を資産にする代わりに、経路を負債にもする

敷設した誘導インフラは、走行時の確実性をもたらす。同時に、道路工事や路面の切削オーバーレイで失われうる資産になる。誰が維持し、失われたときに誰が費用を負担し、その間サービスは止まるのか。これが契約時の論点になる。

経路教示にかかる作業量と、経路変更時の再作業量については、公表資料から数値を確認できなかった。国内の実証事業報告、企業の公開資料のいずれにも記載がない。ベンダーに直接聞く以外に知る方法がない

実際に使われている例

表:公表資料で確認できるG0系統の運用例(2026年7月30日時点)。
場所内容現状
福井県永平寺町2023年5月21日にレベル4(車両内無人)の有料サービス開始。電磁誘導線とRFID、約2km区間、車両は定員7名・最高12km/h以下。遠隔監視1名が最大3台車両の保証・保守期間が令和8年3月末で満了したため、2026年4月1日以降は当面運休
JR東日本 気仙沼線BRT2026年5月8日発表。専用道 約15.5km、最高速度約60km/h、磁気マーカーとRFID。乗務員乗車型2026年5月29日〜7月4日の毎週金・土 計14日間の実施を発表
秋田県上小阿仁村2019年11月30日に本格運行開始。電磁誘導線、最高12km/h、定員5人公表資料で運行の継続を確認
茨城県境町2020年11月26日に自治体による公道定常運行を開始。3ルート・33便・運賃無料2026年6月時点で車両メンテナンスのため運行休止し、普通車で代替運行

この世代を選ぶ合理的な理由が今でもあるか

ある。ただし理由は「技術が古いから安い」ではない

選ぶ合理的な理由は次のとおりである。

  • 走行環境が確定している場合。専用道、構内、空港制限区域のように経路が固定されているなら、経路を可変にする能力に費用を払う理由がない。
  • 悪条件での確実性が要る場合。積雪地帯やトンネルを含む経路では、カメラとLiDARに依存する方式より位置推定が安定する。
  • 認可・許可の見通しを立てたい場合。挙動が予測しやすいことは、行政手続と住民説明の両方で効く。日本国内のレベル4の事例がこの系統に集中していることは、この点と無関係ではない。

一方で、この世代を選ばない合理的な理由もある。技術の更新が続く保証がないことである。岡山県津山市は2026年度の実証運行を中止した。公表されている理由はこうである。使用していたバスは「あらかじめ学習させたルートを走るシステム」だった。一方で世界的には、周辺状況を自動学習する技術が急速に進化している。その結果、技術のアップデートのコストや実施時期のめどが不透明だった

これは技術的な優劣の話ではない。製品として供給が続くかどうかの話である。

表:G0世代における12レイヤーの実装。2026年7月30日時点で公表されている情報にもとづく。
レイヤーこの世代での実装
L01 センシングLiDARとカメラは搭載されるが、位置推定の主たる手段ではない。前方の障害物検知に用いる
L02 測位・地図この世代の中核。電磁誘導線または磁気マーカーで経路を教示する。衛星測位は補完
L03 認識・予測障害物の有無を判定して停止するかどうかを決める。種類の識別は必須ではない
L04 判断・計画経路追従と停止則。経路から外れない制御と、前方に何かあれば止まる判定
L05 制御・車両多くが最初から無人前提で設計された専用車両。低速のため制動距離が短い
L06 計算基盤必要な演算量が小さい。大型のモデルを載せる必要がない
L07 通信・インフラ協調遠隔監視が前提。国内の事例では監視者1人が最大3台
L08 HMI・対人車内の乗客案内が中心。低速のため車外への意思表示の要求は相対的に低い
L09 ODDと運用ODDが経路そのものとほぼ一致する。範囲が明確で説明しやすい
L10 安全保証・規格機能安全(ISO 26262)が中心。認識性能の限界に由来する危険は相対的に小さい
L11 検証・評価経路単位の受入試験。走る場所が固定されているため試験の対象が限定される
L12 社会実装国内のレベル4事例の中心。補助金への依存と、保守期間満了後の継続が課題

安全保証の観点

この世代の安全論証は、比較的組みやすい。経路が固定されているため、起こりうる状況の列挙が現実的な範囲に収まるからである。ISO 26262 に基づく機能安全の枠組みが、そのまま効く部分が大きい。

ただし経路上の障害物への対応は別問題として残る。ここは ISO 21448(SOTIF)の範囲であり、故障していないのに危険が生じる場合にあたる。

発注・検討するときの確認点

  1. 「経路を1km設定するのに、実際に何日・何人かかりましたか。過去の導入案件の実績値を示してください」

    なぜこれを聞くのか
    この数値は公表資料に存在しない。ベンダーに直接聞く以外に知る方法がない。
  2. 「誘導インフラの所有者と維持責任は誰ですか。道路工事で失われた場合、再設置の費用は誰が負担し、その間サービスは止まりますか」

    なぜこれを聞くのか
    敷設したインフラは資産であり負債でもある。誰の負担かを契約前に決める必要がある。
  3. 「路上駐車・積雪・沿道の草木に遭遇したときの停止頻度を、既存導入地の実測値で示してください」

    なぜこれを聞くのか
    公的資料に「路上駐車183回中169回が回避困難」といった数値がある。同等の数値を自社製品について出せるかを問う。

混同されやすい用語

表:G0世代で混同されやすい語。
この語別のこの語違い
経路教示SLAM経路教示は事前に決めた線を辿る。SLAMは走りながら地図を作り自己位置を推定する
電磁誘導線磁気マーカー前者は通電が必要な連続した線、後者は受動的な素子を離散的に配置する。公表資料では速度域に差がある
位置が分かる安全に走れる位置推定の確実性は、前方の障害物への対応を保証しない

出典

一次情報を優先している。「区分」は、その資料が発行機関自身の公表物(一次)か、第三者による索引・複製(ミラー)か、解説(二次)かを示す。リンク切れに備え、発行者・文書名・日付を本文でも残している。

  1. 愛知製鋼株式会社GMPS(Global Magnetic Positioning System)。磁気マーカとMIセンサによる自車位置検知。位置検出精度±5mm、時速200kmまで追従、設置間隔2m〜10mの実績参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.aichi-steel.co.jp/smart/mi/gmps/
  2. 愛知製鋼株式会社GMPSに関するよくある質問(磁力は半永久的と記載。水も氷も物理的に影響がなく積雪時も機能。RFIDは水没で読出しが難しくなる場合あり)参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.aichi-steel.co.jp/smart/mi/gmps/faq.html
  3. 東日本旅客鉄道株式会社気仙沼線BRT 自動運転レベル4走行を実施します(柳津駅〜水尻川AP 約15.5km、最高速度約60km/h、磁気マーカを約2mごと・RFIDを約10mごとに埋設。専用道)2026年5月8日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.jreast.co.jp/press/2026/20260508_ho02.pdf
  4. RoAD to the L4(経済産業省・国土交通省)【福井県永平寺町】遠隔監視のみ(レベル4)自動運転サービス(車両ヤマハAR-07・定員7名・最高12km/h以下、電磁誘導線とRFID、遠隔監視1名が最大3台、運行47日・延べ1,700km・乗客1,168名)2024年2月28日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/theme01/pdf/20240228_theme01.pdf
  5. 福井県永平寺町自動運転車の運行について(レベル4・車両内無人。大人100円/中学生以下50円。運行主体はまちづくり株式会社ZENコネクト。車両の保証・保守期間が令和8年3月末で満了し、4月1日以降は当面運休)参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.town.eiheiji.lg.jp/
  6. 国土技術政策総合研究所地方部の自動運転の実装に向けた課題(方式別の走行速度、除雪した雪・沿道の植栽・路上駐車による停止や手動介入)2019年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.nilim.go.jp/lab/qcg/japanese/3paper/pdf/2019_3.pdf
  7. 国土交通省道路局道路局における自動運転の取組について(実証の手動介入実数:路上駐車183回中169回が回避困難、積雪55回中41回が幅員減少により停止)2020年12月23日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/mini_symposium/20201223/02_01kokkousyou_kouennsiryou.pdf
  8. 茨城県境町境町で自動運転バスを定常運行しています(3ルート・33便・運賃無料。2026年6月時点で車両メンテナンスのため運行休止、普通車で代替運行)更新 2026年6月28日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/page/page002440.html
  9. KSB瀬戸内海放送津山市が自動運転バスの実証事業中止へ(理由:あらかじめ学習させたルートを走るシステムであり、技術のアップデートのコストや実施時期のめどが不透明)2026年(報道)/区分:二次/参照日 2026年7月30日https://news.ksb.co.jp/article/16665928
  10. 経済産業省レベル4自動運転移動サービスの実現(道路運送車両法に基づく国内初のレベル4自動運行装置の認可=2023年3月30日、国内初の特定自動運行許可=2023年5月11日 福井県公安委員会)2023年5月12日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.meti.go.jp/press/2023/05/20230512002/20230512002.html
  11. 国際標準化機構(ISO)ISO 26262-1:2018 Road vehicles — Functional safety(第2版。第3版が改訂作業中)2018年12月17日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.iso.org/standard/68383.html
  12. 国際標準化機構(ISO)ISO 21448:2022 Road vehicles — Safety of the intended functionality(SOTIF)2022年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.iso.org/standard/77490.html
  13. Cadena, C. ほか/IEEE Transactions on Robotics 32(6):1309–1332(査読誌)Past, Present, and Future of Simultaneous Localization and Mapping: Toward the Robust-Perception Age(地図の長期維持を未探究の課題と位置づけ、外れ値1つで推定が劣化する脆さを指摘)2016年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://arxiv.org/abs/1606.05830

最終更新日:2026年7月30日。このページの記述は同日時点で確認したものである。

関連するページ