一言でいうと
映像を入れると運転操作が出てくる、という1つの学習系にまとめた世代である。精密な地図に頼らない設計を採る。
分割をやめたことで性能は上がりうるが、どこで何を間違えたのかを指し示すのが難しくなる。
何を解決するために生まれたか
段に分けると、段の境界で情報が落ちる。その境界(たとえば「検出された物体のリスト」)は人間が設計したものであり、計画にとって本当に必要な情報がそこに含まれている保証はない。
加えて、手で書いたルールは、めったに起きない状況を網羅できない。この2つが、分割をやめる動機になった。
考え方自体は古い。1988年に発表された ALVINN は、ニューラルネットワークで映像から操舵を直接出力する研究だった。2016年には別の研究がこの路線を再提示している(ただしこちらはプレプリントのみで、査読状況は確認できない)。
仕組み
この世代には、性質の違う2つの設計がある。
| 設計 | 中身 | 検証の観点 |
|---|---|---|
| 中間表現を捨てる | センサ入力から制御出力まで単一のネットワーク | 入出力のブラックボックス試験に依存する |
| 中間表現を残す | 検出・追跡・地図・予測・占有予測を明示的なタスクとしてネットワーク内に保持し、全体を計画の目的で同時に最適化する | 中間出力を観測できる。ただし観測できることは、それが出力を決めていることを意味しない |
後者の代表が UniAD で、CVPR 2023 の最優秀論文に選ばれている。全構成要素を最終目的である計画に向けて最適化し、統一されたクエリでモジュール間を通信させることで、誤差の累積を減らすと主張している。同じ路線で、地図やエージェントをベクトル量として明示的に扱う手法(ICCV 2023)もある。
マップレスという側面
この世代のもうひとつの特徴が、高精度地図に依存しない設計である。ただし「地図がいらない」と言うとき、何がいらないのかは会社によって違う。公表資料で確認できる範囲を並べる。
| 企業 | 高精度地図 | ナビ地図 | 公表資料の表現 |
|---|---|---|---|
| Imagry | 不要と明言 | 確認できない | 測位における衛星測位とコンパスへの依存については、排除することを「目指す」と記載 |
| Wayve | 不要と明言 | 当該ページに記載なし | カメラとレーダの入力を単一のニューラルネットワークで運転出力に変換すると記載 |
| XPeng | 制約から解放されたと主張 | 使う(明言) | 「ナビゲーションが可能な場所ならどこでも」と記載 |
| Mobileye(REM) | 軽量地図をクラウドソースで作る中間方式 | — | 地図作成を人間の運転の副産物にすると説明。1台1kmあたり約10kB |
最後の行が示すとおり、この軸は二択ではない。マップレスで詳しく扱う。
言語を挟む設計(VLA)
この世代の延長に、視覚・言語・行動を扱うモデルがある。言語による説明可能性と、常識的な推論の導入を狙ったものである。
「VLA」という語が指す中身は、企業によって違う
ある企業のモデルは言語を入力にも出力にも用い、運転行動と同時に理由の実況を生成する。別の企業は、言語への翻訳ステップを介さず視覚信号から行動指令を直接生成する設計を採りながら、同じく「VLA」と呼んでいる。
比較するときは「言語が推論の経路上にあるのか、出力の脇にあるのか」を区別する必要がある。
言語による説明は、判断を説明しているのか
説明文は、行動と同じ学習信号から生成される。だから行動を説明しているのではなく、行動と一緒にもっともらしい文を生成しているにすぎない可能性がある。
この点について、提唱している企業自身が留保を公表している。ある企業は「説明と意思決定の整合性を定量化するには、さらなる作業が必要」と明記している。
定量的な評価を試みた研究もある。ある公開モデルを対象に、300の推論を評価したものである。報告されている数値は次のとおりである。推論の忠実度42.5%。推論と行動の整合性が平均48.3%。挙動が変わったのに説明文が同一のままという事象が14.3%。ただしこれはワークショップ論文であり、本会議の査読とは水準が異なる。
したがってこのサイトは、「VLAだから説明可能」とは書かない。決着していないと書く。
できること/できないこと
この世代でできること
- 認識と計画を同時に最適化し、中間段での情報損失を減らす
- 手作りルールの網羅性に依存しない
- 地図の陳腐化と、整備済み路線に縛られる制約から離れる
- 中間表現を残す設計なら、可観測性を一部回復する
この世代でできないこと
- 故障を切り分けること。インシデント後の原因究明が難しい
- 挙動の変更を局所的に行うこと。再学習と全面的な再検証を伴う
- 既存の機能安全規格の分解型の論証に、そのまま乗ること
- 中間タスクが存在することを、それが出力を決めている証拠にすること
トレードオフ
この世代は、同時最適化による性能を得る代わりに、故障の切り分けと局所的な修正の手段を手放している。
とくに重要なのは、構造と因果の区別である。ネットワークの内部に中間タスクが存在することは構造の話であり、その中間出力が実際に最終出力を決めていることは因果の話である。査読誌のレビューは、説明手法一般について「重要度を実際の因果と混同してはならない。重要度は出力予測を変えずに操作できることが多い」と警告している。
この世代を選ぶ合理的な理由が今でもあるか
ある。ただし「新しいから優れている」という理由ではない
選ぶ合理的な理由は、地図整備が現実的でない広い範囲を対象にする場合である。整備済み路線に縛られないことは、範囲を広げたい事業にとって決定的な差になりうる。
一方で、性能の主張を読むときには注意が要る。査読論文には次の報告がある。
- 開ループの評価と閉ループの評価は負の相関を示す。開ループで優位を示した結果は、閉ループの性能を保証しない。
- ある公開データセットでは、End-to-Endのモデルが知覚情報をほとんど使わず、自車の速度などの状態だけで競争力のあるスコアを出せてしまった。
つまりこの世代の評価は、評価方法そのものが論点になっている。「どちらの世代が優れているか」ではなく「何を測っているか」の対立である。
| レイヤー | この世代での実装 |
|---|---|
| L01 センシング | カメラ中心の構成を採る例がある。単一のネットワークが複数センサの入力を直接受ける設計もある |
| L02 測位・地図 | 高精度地図に依存しない設計。ただし何が不要かは会社によって違う |
| L03 認識・予測 | 認識と計画の境界が消える。中間表現を残す設計と、残さない設計がある |
| L04 判断・計画 | この世代の中核。知覚から行動までを1つの学習系で扱う。言語を挟む設計もある |
| L05 制御・車両 | 制御・車両層に世代固有の差は小さい |
| L06 計算基盤 | 大きなモデルを車に載せる制約。電力と熱、推論の遅延が論点になる |
| L07 通信・インフラ協調 | 車載で完結する設計が多い。通信が切れたときのふるまいは別に設計する |
| L08 HMI・対人 | 言語による説明を出す設計がある。ただし説明の忠実性は検証されていない |
| L09 ODDと運用 | ODDの記述が難しくなる。学習系の能力の境界を項目に分けて書けるかが論点 |
| L10 安全保証・規格 | 既存の分解型の安全論証に乗りにくい。ISO/PAS 8800:2024 が枠組みを与える |
| L11 検証・評価 | 検証が最大の課題。開ループと閉ループの評価が食い違うことが報告されている |
| L12 社会実装 | 公道での商用運行の実績は、2026年7月時点で限定的である |
安全保証の観点
既存の規格(ISO 26262、ISO 21448)は要件の分解を前提としている。この世代はその前提と相性が悪い。
2024年12月に発行された ISO/PAS 8800 は、AI要素の「出力の不十分性」を扱う枠組みを与えた。ただし PAS であって完全な国際規格ではなく、施行の実績も浅い。この形式でEnd-to-Endの論証が実務的に通るかは、今後の当局の判断に依存する。
発注・検討するときの確認点
「評価は閉ループで行っていますか。開ループの指標しか出せない場合、自車の状態だけを入力にしたベースラインと比べてどれだけ上回っていますか」
- なぜこれを聞くのか
- 査読論文が、開ループと閉ループの負の相関、および自車状態だけで競争力あるスコアが出る問題を報告している。
「学習したモデルの外側に、独立した安全監視の層はありますか。その層はAIですか、ルールですか」
- なぜこれを聞くのか
- 学習系の出力を別の原理で検査する層があるかどうかで、論証の組み方が変わる。
「インシデントの映像を渡したとき、モデルのどの内部表現が誤っていたかを示せますか。その内部表現が実際に出力を決めていたことを、どう検証しますか」
- なぜこれを聞くのか
- 構造として中間タスクがあることと、それが因果的に効いていることは別である。
出典
一次情報を優先している。「区分」は、その資料が発行機関自身の公表物(一次)か、第三者による索引・複製(ミラー)か、解説(二次)かを示す。リンク切れに備え、発行者・文書名・日付を本文でも残している。
- Pomerleau, D. A./Advances in Neural Information Processing Systems 1(査読会議)ALVINN: An Autonomous Land Vehicle in a Neural Network(End-to-End の最初期の研究。NIPS 1988で発表、予稿集は1989年刊行)https://proceedings.neurips.cc/paper/1988/hash/812b4ba287f5ee0bc9d43bbf5bbe87fb-Abstract.html
- Hu, Y. ほか/CVPR 2023 Best Paper(査読会議)Planning-oriented Autonomous Driving(UniAD)。全構成要素を最終目的である計画に向けて最適化する。検出・追跡・地図・予測・占有予測を一つのネットワーク内に明示的に残すhttps://openaccess.thecvf.com/content/CVPR2023/papers/Hu_Planning-Oriented_Autonomous_Driving_CVPR_2023_paper.pdf
- Chen, L. ほか/IEEE TPAMI(査読誌)End-to-end Autonomous Driving: Challenges and Frontiers(未解決課題としてマルチモダリティ・解釈性・causal confusion・堅牢性・世界モデルを列挙)https://arxiv.org/abs/2306.16927
- Dauner, D. ほか/CoRL 2023(査読会議)Parting with Misconceptions about Learning-based Vehicle Motion Planning(開ループ評価と閉ループ評価が負の相関を示す。20年以上前に確立されたルールベースのベースラインが閉ループで当時の全ての最先端学習手法を上回った)https://proceedings.mlr.press/v229/dauner23a.html
- Li, Z. ほか/CVPR 2024(査読会議)Is Ego Status All You Need for Open-Loop End-to-End Autonomous Driving?(E2Eモデルが知覚情報をほとんど使わず自車状態に依存して将来経路を出力していたことを示す)https://arxiv.org/abs/2312.03031
- Kuznietsov, A. ほか/IEEE T-ITS(査読誌)Explainable AI for Safe and Trustworthy Autonomous Driving: A Systematic Review(モジュール型のほうが誤りの発生源を追跡しやすい。重要度を実際の因果と混同してはならないと警告)https://dl.acm.org/doi/10.1109/TITS.2024.3474469
- Wayve(企業公式)LINGO-2: Driving with Natural Language(公道で試験された初の閉ループ vision-language-action driving model と自称。説明と意思決定の整合性の定量化にはさらなる作業が必要と明記)https://wayve.ai/thinking/lingo-2-driving-with-language/
- XPENG(企業公式)XPENG Accelerates Global Deployment of VLA 2.0 With Public Road Testing and 2027 Delivery Planhttps://www.xpeng.com/pressroom/news/019cae5e67b99c0960ee8a028129016a
- XPENG(企業公式)Tianji XOS 5.2 OTA/XNGP 全国展開(HD地図の制約から解放されたと主張。2,595都市以上で試験。「ナビゲーションが可能な場所ならどこでも」と記載)https://www.xpeng.com/news/0191048fbaf390dede112c9e8ca200c3
- Wayve(企業公式)AV2.0 Technology(HD地図とルールベースへの依存を排し、カメラとレーダの入力を単一のニューラルネットワークで運転出力に変換すると記載)https://wayve.ai/technology/av2-0/
- Imagry(企業公式)Imagry 公式サイト(カメラのみ・HD地図不要の方式。掲載されているのは実証運行とパートナーシップ)https://www.imagry.co/
- Mobileye(企業公式)REM(Road Experience Management)。地図作成を人間の運転の副産物にする方式。1台1kmあたり約10kB、北米で1台年間約200MBhttps://www.mobileye.com/technology/rem/
- 国際標準化機構(ISO)ISO/PAS 8800:2024 Road vehicles — Safety and artificial intelligence(車両内AI要素の出力の不十分性を扱う。PAS=公開仕様書であり完全な国際規格ではない)https://www.iso.org/standard/83303.html
- 国際標準化機構(ISO)ISO 26262-1:2018 Road vehicles — Functional safety(第2版。第3版が改訂作業中)https://www.iso.org/standard/68383.html
- 国際標準化機構(ISO)ISO 21448:2022 Road vehicles — Safety of the intended functionality(SOTIF)https://www.iso.org/standard/77490.html
最終更新日:2026年7月30日。このページの記述は同日時点で確認したものである。
