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G1 モジュール型パイプライン+HD地図

仕事を段に分けて各段を検証する。高精度地図で周囲を先に与える。

一言でいうと

仕事を「見る・読む・決める・動かす」に切り分け、それぞれを個別に点検できるようにした。さらに、周囲の道路の形をあらかじめ精密な地図として車に渡しておく。

分けたぶん、検証しやすい。これがこの世代の設計思想である。

何を解決するために生まれたか

自動運転を全部まとめて作ると、うまくいかないときにどこが悪いのか分からない。だから段に分ける。分ければ各段を別々に試験でき、故障の切り分けができ、責任の範囲も切り分けられる。

この分割は、2007年の DARPA Urban Challenge に参加したチームの論文で具体的に文書化された。カーネギーメロン大学の車両は、経路の計画・挙動の選択・軌道の生成という三層の構成を採り、認識モジュールはそれと独立していた。現在の教科書的な整理も、経路計画・挙動選択・軌道生成・フィードバック制御という階層分解を標準としている。

もうひとつの柱が高精度地図である。車線の位置や標識の場所をあらかじめ測っておけば、その場で判断する仕事が減る。センサの射程を超えた情報を持てるし、区画線が不明瞭なときの冗長性にもなる。

仕組み

高精度地図が持つ情報は、査読サーベイで5層に整理されている。道路網の位相、道路形状の幾何、車線境界や信号などの意味、工事区間などの動的情報、そして測位のための特徴である。

作り方は、計測車両で走って点群を取得し、そこから地物を起こす。日本のダイナミックマップ基盤株式会社は、移動計測システムで計測すると記載している。搭載するのはGPS・カメラ・レーザスキャナ・IMUである。精度についてはcm級の絶対精度を実現するとしている。整備状況は次のとおり公表されている。国内33,000km、北米1,500,000km、欧州255,000km、韓国20,000km。

地図の交換形式としては、ASAM の OpenDRIVE が業界標準として使われている。

できること/できないこと

この世代でできること

  • 各段を独立に試験し、受け入れ基準を段ごとに定義する
  • 不具合が起きたときに、どの段の問題かを切り分ける
  • センサが見る前から、道路構造・信号と車線の対応・勾配を知っている
  • 機能安全の既存の枠組みに乗せやすい
  • サプライヤ間で責任範囲を契約として切り分ける

この世代でできないこと

  • 段の境界で捨てた情報を、下流で復元すること
  • 地図が整備されていない道を走ること
  • 地図が現実と食い違ったことに、地図だけで気づくこと
  • 段ごとの最適が全体の最適になることを保証すること

地図は、現実が変わった瞬間に「自信を持って間違った情報」に変わる

工事や区画線の引き直しで道路が変われば、地図は誤りになる。しかも地図は不確かさを伴わずに情報を提供するため、センサ由来の不確かさより扱いが難しい

更新のコストと頻度については、公表資料に数値がほとんど存在しない。査読論文は「専門的なデータ収集は専門の測量車両群を要し非常に高価である」「データ収集と製作の全体に長い時間がかかる」と定性的に述べるにとどまる。同論文は、変化検知の性能が対象によって大きく異なり、停止線の検知成績が悪いことも報告している。

整備状況の数値にも注意が要る。ダイナミックマップ基盤株式会社が2021年4月7日に公表した一般道への拡張計画がある。そこでは2023年度に約80,000km、2024年度に約130,000kmを掲げていた(いずれも往復延長)。現行の製品ページが示す国内33,000kmとは桁が合わない。基準の違いなのか計画との差なのかは、公表資料から判別できない

トレードオフ

この世代は、検証可能性を得るために、情報の損失と運用範囲の制約を引き受けている

段の境界に置くインターフェース(たとえば「検出された物体のリスト」)は人間が設計したものである。そこに、計画にとって本当に必要な情報がすべて含まれている保証はない。この点は、次の世代以降が問題にしている論点である。

地図についても同様で、事前情報という冗長性を得る代わりに、整備済み路線の外に出られないという制約を負う。

この世代を選ぶ合理的な理由が今でもあるか

ある。安全論証の枠組みが、この分解を前提にしている

既存の機能安全の枠組みは、要件を段ごとに分解し、その積み上げで全体を論じる形式を採る。分解がなければ、既存の安全論証手法をそのまま適用できない。認可を取る実務の観点からは、これは小さくない利点である。

加えて、査読論文には注目すべき報告がある。閉ループの評価とは、シミュレータの中で自車が実際に動く評価である。そこでは20年以上前に確立されたルールベースの計画手法が、当時の最先端の学習ベース手法をすべて上回った。同じ論文は、開ループの評価と閉ループの評価が負の相関を示すことも報告している。

一方で、この世代を選ばない理由もある。手で書いたルールとインターフェースが、想定していない状況を網羅できないことである。この限界が、次の世代を生んだ動機になっている。

なお、現代のモジュール型でも認識段はほぼ全て深層学習である。「分割していれば説明できる」という主張は、正確には「分割点の中間表現が人の読める形式である」という限定的な主張にすぎない。

表:G1世代における12レイヤーの実装。
レイヤーこの世代での実装
L01 センシングLiDAR・カメラ・レーダを搭載し、後段で結果を統合する。センサごとに独立した処理系を持つ
L02 測位・地図高精度地図が中核。地図との照合で自己位置を決める。衛星測位と慣性で補完
L03 認識・予測検出・追跡・予測を段に分ける。各段に独立した性能要件を置ける
L04 判断・計画ルールベースと最適化。有限状態機械、行動木、コスト関数の最適化、モデル予測制御
L05 制御・車両既存車の改造が中心。ドライブバイワイヤ化と冗長化
L06 計算基盤段ごとに演算資源を配分する。処理の内訳が見えやすい
L07 通信・インフラ協調信号との連携、路側センサとの協調。地図と組み合わせて使う
L08 HMI・対人車外への意思表示と、遠隔監視者への状況提示
L09 ODDと運用ODDは地図の整備範囲とほぼ一致する。範囲外に出ると走れない
L10 安全保証・規格ISO 26262 に加え、性能限界を扱う ISO 21448 が必要になる
L11 検証・評価段ごとの単体試験と、シナリオベースの結合試験
L12 社会実装地図整備の費用と更新体制が、事業性の主要な変数になる

安全保証の観点

この世代は、既存の規格の枠組みに最も素直に乗る。ISO 26262 で故障時の安全を、ISO 21448 で性能限界に由来する危険を扱い、段ごとの要件を積み上げて全体の論証を組む。

ただし「分割しているから説明できる」は、分割点の中間表現が人に読める形式であることを意味するにすぎない。認識段の内部が深層学習である以上、その内部の説明可能性は別の問題として残る。

発注・検討するときの確認点

  1. 「システムのどの境界が、人が読める形式の中間表現で区切られていますか。境界ごとに独立した性能要件と受け入れ基準はありますか」

    なぜこれを聞くのか
    「モジュール型だから検証できる」という主張の実体を確かめる問いである。
  2. 「導入予定路線が地図の整備対象に入っていますか。工事から地図に反映されるまで何日かかりますか」

    なぜこれを聞くのか
    整備範囲の外は走れない。反映までの日数を契約上の数値として出せるかを問う。
  3. 「地図と現実が食い違ったことを、誰がどうやって気づきますか」

    なぜこれを聞くのか
    車が自動検知するのか、人の報告に依存するのかで、運用の負担が変わる。

出典

一次情報を優先している。「区分」は、その資料が発行機関自身の公表物(一次)か、第三者による索引・複製(ミラー)か、解説(二次)かを示す。リンク切れに備え、発行者・文書名・日付を本文でも残している。

  1. Urmson, C. ほか/Journal of Field Robotics 25(8):425–466(査読誌)Autonomous driving in urban environments: Boss and the Urban Challenge(mission / behavioral / motion の三層プランニング)2008年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://publications.ri.cmu.edu/autonomous-driving-in-urban-environments-boss-and-the-urban-challenge
  2. Paden, B. ほか/IEEE Transactions on Intelligent Vehicles 1(1):33–55(査読誌)A Survey of Motion Planning and Control Techniques for Self-Driving Urban Vehicles(経路計画・挙動選択・軌道生成・フィードバック制御の階層分解)2016年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://ieeexplore.ieee.org/document/7490340/
  3. Asrat, K. T. & Cho, H.-J./ISPRS International Journal of Geo-Information 13(7):232(査読誌)A comprehensive survey on high-definition map generation and maintenance(HD地図を位相・幾何・意味・動的・特徴の5層に整理)2024年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.mdpi.com/2220-9964/13/7/232
  4. Zhang, P. ほか/Sensors 21(7):2477(査読誌)Real-Time HD Map Change Detection for Crowdsourcing Update Based on Mid-to-High-End Sensors(専門計測車両による更新は高価で時間がかかると指摘。停止線の検知成績が悪いことを明記)2021年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.mdpi.com/1424-8220/21/7/2477
  5. ダイナミックマップ基盤株式会社自動運転向けデータ(高精度3次元地図。国内33,000km・北米1,500,000km・欧州255,000km・韓国20,000km。MMSで計測しcm級の絶対精度と記載)参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.dynamic-maps.co.jp/service/hdmap/
  6. ASAM e.V.ASAM OpenDRIVE(道路網記述の交換フォーマット。車線・路面標示・信号等の幾何を記述)参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.asam.net/standards/detail/opendrive/
  7. Ziegler, J. ほか/IEEE Intelligent Transportation Systems Magazine 6(2):8–20(査読誌)Making Bertha Drive — An Autonomous Journey on a Historic Route(103kmの自律走行。連続最適化による軌道生成。著者自身が「全体の挙動は注意深い人間ドライバーの水準にはるかに及ばない」と明記)2014年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.mrt.kit.edu/z/publ/download/2014/ZieglerAl2013ITSMag.pdf
  8. Dauner, D. ほか/CoRL 2023(査読会議)Parting with Misconceptions about Learning-based Vehicle Motion Planning(開ループ評価と閉ループ評価が負の相関を示す。20年以上前に確立されたルールベースのベースラインが閉ループで当時の全ての最先端学習手法を上回った)2023年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://proceedings.mlr.press/v229/dauner23a.html
  9. Kuznietsov, A. ほか/IEEE T-ITS(査読誌)Explainable AI for Safe and Trustworthy Autonomous Driving: A Systematic Review(モジュール型のほうが誤りの発生源を追跡しやすい。重要度を実際の因果と混同してはならないと警告)2024年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://dl.acm.org/doi/10.1109/TITS.2024.3474469
  10. 国際標準化機構(ISO)ISO 26262-1:2018 Road vehicles — Functional safety(第2版。第3版が改訂作業中)2018年12月17日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.iso.org/standard/68383.html
  11. 国際標準化機構(ISO)ISO 21448:2022 Road vehicles — Safety of the intended functionality(SOTIF)2022年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.iso.org/standard/77490.html

最終更新日:2026年7月30日。このページの記述は同日時点で確認したものである。

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