GREEN TECHNOLOGY. BLUE

ODDの定義書には何が書かれるか

走れる条件の範囲を文書にしたもの。粒度の選択が、そのまま安全の主張の強さを決める。

一言でいうと

走れる条件の範囲を文書にしたものである。道路の種類、速度、天候、時間帯、路面、周囲の交通。列挙する項目は多い。

この文書があるかどうか、そして誰が変更を承認するのかが、発注時の最初の確認点になる

何を解決するために生まれたか

自動運転システムは、あらゆる状況で同じように動くわけではない。走れる条件を曖昧にしたまま契約すると、後で必ず食い違う。だから範囲を項目ごとに書き出す。

ただし「範囲を書く」だけでは不十分だった。何をどの粒度で書くかが人によってばらつき、比較も検証もできなかったからである。そこで書き方そのものが規格化された。

仕組み

ISO 34503:2023(第1版、2023年8月発行)が、この書き方を規定している。定めているのは2つである。ODDを定義するための階層的なタクソノミの要求事項と、そのタクソノミを用いた記述フォーマットである。主にレベル3とレベル4を対象とし、レベル5はODDが無制限のため対象外の扱いになる。

表:ISO 34503:2023 によるODDのトップレベル3分類と、その中身。
分類含まれるもの
景観要素ゾーン、走行可能領域、交差点、道路構造物など、空間的に固定された要素(第9章)
環境条件天候、粒子状物質(霧・砂塵等)、照度、通信の接続性(第10章)
動的要素交通参加者、自車(第11章)

第12章にODDの定義フォーマットが規定されている。英国の PAS 1883(2020年8月31日発行)はこの規格に先行した公開仕様書で、入力となった。2025年版はISO 34503の実装ガイドへと役割を変えている。

ODDの6項目を囲んだ枠から矢印が出て、外に出たことを判定する仕組みと、その後の挙動の2つの箱につながる構造図ODD(走れる条件の範囲)道路の種類速度天候時間帯路面周囲の交通外に出る何が判定するのか検知の仕組みと判定までの時間そのあと何をするかどこに停止するか誰が現場に来るか
図:ODDは走れる条件の範囲を書いた文書である。範囲の外に出ることは異常ではなく必ず起きる。外に出たことを何が判定し、そのあと車が何をするかまでが設計の対象になる。

できること/できないこと

できること

  • 走れる条件を、項目ごとに数値または条件として示す
  • 提案されている経路が、そのシステムの想定内に収まっているかを確認する
  • どの季節・時間帯に運行を止める必要があるかを事前に把握する
  • 仕様書と住民説明の記述の根拠にする

できないこと

  • その範囲内で実際に安全に走れることを示すこと。ODDは主張であって証拠ではない
  • 範囲の境界付近での挙動を示すこと。内と外の間には移行帯がある
  • 書かれていない項目についてのシステムの振る舞いを示すこと
  • ODDの記述を、そのまま検証の道具や認可の書類に流用すること(道具に依存する)

トレードオフ

粒度の選択が、そのまま安全の主張の強さを左右する

「雨天」を1項目で書くのか、降雨強度・路面の水膜・視程に分けて書くのかは、規格が決めていない

粗く書けば運用できる範囲は広く見えるが、実質的に安全の論証が緩くなる。細かく書けば論証は強くなるが、走れる範囲は狭くなる。この選択がそのまま文書に現れる。

したがってODDの定義書を見るときに確認すべきは「範囲が広いか」ではない。項目が数値で書かれているかである。

実際に使われている例

日本の制度では、ODDに相当するものとして走行環境条件が車両に付与される。国土交通省のガイドラインも走行環境条件の設定を求めている。

2026年6月に採択された国連の枠組みでも、ODDの宣言が要求項目に含まれている。

ODDの外に出たときの扱いを、どこまでODDの一部とみなすか

ODDの境界に近づいたときの予測、人への引き継ぎ、最小リスク状態への移行。これらをどこまでODDの定義の一部とみなすかは、ISO 34503 が直接規定していない。

この論点は、安全に関する別の規格や、国連の規則の側の議論に委ねられている。したがって「ODDの定義書がある」ことは、境界での挙動が定義されていることを意味しない

ODDの記述が一本化されていない

いま3つの流れが並存している。ISO 34503 の記述用タクソノミ。機械可読フォーマットの検討。そして各国の規制が求める宣言である。2番目は2021年10月の概念文書の段階で、規格としては未発行である。

結果として、同じODDを別々の語彙で書き直す作業が発生しうる。この一本化は済んでいない。

安全保証の観点

ODDは安全論証の出発点になる。どこまでを対象とするかが決まらなければ、何を検証すればよいかも決まらないからである。

2026年6月に採択された国連の協定規則第185号は、ODDの明確化を要求項目に含めている。あわせて安全論証、安全管理システム、市場導入後の監視と報告を求める構成になっている。

発注・検討するときの確認点

  1. 「ODDの記述は ISO 34503:2023 の記述フォーマットに準拠していますか。準拠していない場合、どの属性が欠けており、その理由は何ですか」

    なぜこれを聞くのか
    準拠していれば、項目の抜けを機械的に確認できる。していない場合、何が抜けているかを聞く。
  2. 「ODDの各属性について、境界値を数値で示してください。その境界値を検知する仕組みと、境界に達したときの挙動も示してください」

    なぜこれを聞くのか
    境界を検知できなければ、範囲を決めた意味がない。
  3. 「ODDの変更は、誰がどのように承認しますか。私たちの承認は必要ですか」

    なぜこれを聞くのか
    ODDは運行開始後に変わる。変更手順が文書化されていなければ、運行条件が静かに変わる。

混同されやすい用語

表:このページで扱った語と、混同されやすい語。詳しい定義は用語集にある。
この語別のこの語違い
ODDEOC(外部運用条件)ODDは走れる条件の範囲。EOCはODDを成立させるために車の外側で満たすべき条件。別の文書になる
ODD走行環境条件ODDは設計上の範囲。走行環境条件は日本の制度で行政が付与する条件
ODDがある境界での挙動が決まっている境界に近づいたときの扱いをODDの一部とみなすかは、規格が規定していない

出典

一次情報を優先している。「区分」は、その資料が発行機関自身の公表物(一次)か、第三者による索引・複製(ミラー)か、解説(二次)かを示す。リンク切れに備え、発行者・文書名・日付を本文でも残している。

  1. 国際標準化機構(ISO)ISO 34503:2023 Road vehicles — Test scenarios for automated driving systems — Specification for operational design domain(ODDのタクソノミと記述フォーマット。景観要素・環境条件・動的要素の3分類)2023年8月/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.iso.org/standard/78952.html
  2. BSI(英国規格協会)PAS 1883 Operational design domain (ODD) taxonomy for an automated driving system(2020年版はISO 34503に先行。2025年版はISO 34503の実装ガイドへ役割を変更)2020年8月31日/2025年版あり/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://knowledge.bsigroup.com/products/operational-design-domain-odd-taxonomy-for-an-automated-driving-system-ads-specification
  3. SAE InternationalJ3016_202104 Taxonomy and Definitions for Terms Related to Driving Automation Systems for On-Road Motor Vehicles(推奨実施要領。レベルは記述的・情報提供的であり規範的ではないと記載。各要素は最大能力ではなく最小能力を示す)2021年4月30日(初版2014年1月)/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://saemobilus.sae.org/standards/j3016_202104-taxonomy-definitions-terms-related-driving-automation-systems-road-motor-vehicles
  4. 国土交通省物流・自動車局自動運転車の安全確保に関するガイドライン 第2版(走行環境条件の設定、安全性保証プロセスの配備、シミュレーション・試験路・実交通環境による総合的確認)令和7年9月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001912973.pdf
  5. United Nations NewsNew global rules clear the road for driverless vehicles(WP.29 第199回会合での採択。支持した主要市場と主な要求を記載)2026年6月24日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://news.un.org/en/story/2026/06/1167797
  6. GlobalAutoRegs(UNECE文書の索引サービス)ECE/TRANS/WP.29/2026/137「Automated Driving Systems: Proposal for a new UN Regulation」(協定規則第185号の提案文書。対象 M1–M3・N1–N3・L6・L7)文書日付 2026年4月14日/区分:ミラー/参照日 2026年7月30日https://globalautoregs.com/documents/42313
  7. 国土交通省自動車局自動運転車の安全技術ガイドライン(ミニマル・リスク・マヌーバーの設定、無人自動運転移動サービスにおける車室内監視カメラと音声通信設備、非常停止時の運行管理センターへの自動通報)平成30年9月/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.mlit.go.jp/common/001253665.pdf

最終更新日:2026年7月30日。このページの記述は同日時点で確認したものである。

関連するページ