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ロボタクシーは拡大しているのか、止まったのか

両方が同時に起きている。そして、どちらが優勢かを数字で判定することはできない。

一言でいうと

両方が同時に起きている。運行実績は急速に拡大し、同じ時期に規制の引き締めが起きた。

拡大の数字だけを引用すれば実態を過大に、引き締めだけを引用すれば過小に伝えることになる。この問いに、片方だけの答えはない。

なぜこの問いを立てるのか

提案書や報道では、中国のロボタクシーについて2つの相反する像が流通している。ひとつは「爆発的に拡大している」、もうひとつは「事故で止まった」である。

どちらも公表資料に根拠がある。問題は、片方だけを見て判断が変わってしまうことである。このページは、両方を並べて、それぞれの出典と限界を示す。

拡大の側:公式IRが公表している数字

企業の公式な投資家向け開示から確認できる数字を並べる。企業間の優劣は判定しない。公表されている項目が企業ごとに違うことに注意して読む必要がある。

表:ロボタクシー事業者の2026年第1四半期の公式開示。2026年7月30日時点で第2四半期はいずれも未公表。
事業者公表している数字
Baidu(Apollo Go)四半期に完全無人で320万回の運行。3月のピーク週は35万回超。2026年4月時点の累計運行回数は2,200万回超。累計自動運転走行距離は3億3,000万km超(うち完全無人2億2,000万km超)。2026年5月時点で世界27都市
Pony.ai2026年5月24日時点で稼働1,700台超、年末目標3,500台超。Robotaxi売上は前年同期比+395.4%(運賃収入は+456.5%)
WeRide2026年4月30日時点でRobotaxi約1,300台、L4全体で約2,800台。12カ国・40都市以上。四半期売上は前年同期比+58%

数字だけを見れば、拡大は明白である。

引き締めの側:2026年3〜4月に何が起きたか

同じ時期に、新規の許可発給が停止されたと報じられている

報じられている経緯は次のとおりである。

  • 2026年3月31日:武漢で、ある事業者のロボタクシー約100台が路上で一斉に停止する事象が発生した(システム障害と報じられている)。
  • 2026年4月中旬まで:中央政府の3省庁が業界全体の是正を命じ、安全監督を強化したと報じられている。
  • 2026年4月下旬:規制当局が新規のロボタクシー・自動運転許可の発給を停止したと報じられている。
  • 2026年6月下旬〜7月:業界全体の安全審査を終え、一部の都市で許可の発給が再開されたと報じられている。

ただし、この措置の根拠となる政府の公表文書は特定できなかった。報道は匿名の情報源に依拠しており、文書番号も公示も確認できない。ある報道は、記事自体に政府の公式通知・文書番号・公表資料が含まれていないことを明示している。

したがってこのサイトは、「中央政府が是正を命じた(報道による。公式文書は確認できていない)」と書く。

この2つをどう並べて読むか

結論から書く。この2つは矛盾していない。並行して起きうることである。

拡大は事業者の投資と運行の話であり、引き締めは規制当局の監督の話である。技術が広がるほど当局の監督が強まるのは、他の分野でも起きてきたことである。

ただし、発注・検討する側にとって重要なのは、この2つが同じ情報源から得られていないという点である。

表:拡大の情報と引き締めの情報の、出所と検証可能性の違い。
拡大の情報引き締めの情報
出所企業の公式IR報道(匿名の情報源)
検証可能性企業が責任を持って公表している政府の公表文書を特定できない
粒度四半期ごとに更新される断片的で、時系列も報道による
バイアスの方向企業は良い数字を公表する動機がある報道は事象を強調する動機がある

この非対称性そのものが、この問いに対する最も重要な答えである。拡大は公式に数えられ、引き締めは数えられていない。したがって「どちらが優勢か」を数字で判定することはできない。

公表される項目が企業ごとに違う

上の表をよく見ると、もうひとつの問題が見える。3社の数字は、そのままでは割り算ができない。

稼働率を出すには運行回数を台数で割る必要がある。公表軸が逆になっているため、この3社について1台あたりの稼働状況を比べることは、公表情報の範囲では不可能である。

それぞれの数字は正確でありうる。割り算が成立しないだけである。詳しくは数字の読み方で扱う。

日本の状況と比べるとどうなるか

比較しようとすると、別の問題に突き当たる。日本については、そもそも集計ができない。

日本では特定自動運行の許可制度が2023年4月1日に施行されている。しかし許可の累計件数と許可事業者の一覧は、2026年7月30日時点で公表を確認できなかった。カリフォルニア州が試験許可・無人試験許可・商用配備許可のそれぞれについて事業者の一覧を公開しているのとは対照的である。

これは評価ではなく確認結果である。公開された一覧が存在しないため、日本国内について件数・稼働状況・事故率を外部から集計することができない。詳しくは世界の基準と、日本で確認できることで扱う。

この問いに答えるための情報が、そもそも揃っていない

ここまで見てきたとおり、次の3つが同時に成り立っている。

  • 拡大の数字は企業の公式IRから得られるが、公表軸が企業ごとに違い、割り算ができない
  • 引き締めの情報は報道から得られるが、政府の公表文書を特定できない
  • 日本については、集計の前提となる公開データが存在しない

したがって「ロボタクシーは拡大しているのか、止まったのか」という問いに、数字で答えることはできない。答えられないことが、現在の情報環境の実態である。

このサイトはここで結論を出さない。かわりに、何が確認でき何が確認できないかを示す。判断は読む人が行う。

提案書でこの話題が出てきたときの確認点

  1. 「その数字は、どの事業者の、どの四半期の、どの公式資料に基づいていますか」

    なぜこれを聞くのか
    公式IRの数字と報道の数字では、検証可能性が違う。
  2. 「その事業者は、運行回数と車両台数の両方を公表していますか」

    なぜこれを聞くのか
    片方しか公表していなければ、稼働率は計算できない。「業界最大規模」という表現が出てきたら、何を分子と分母にしたのかを尋ねる。
  3. 「2026年3〜4月の規制の動きについて、どの資料を参照していますか」

    なぜこれを聞くのか
    拡大の話だけをしている提案書は、同時期の引き締めを把握していない可能性がある。

出典

一次情報を優先している。「区分」は、その資料が発行機関自身の公表物(一次)か、第三者による索引・複製(ミラー)か、解説(二次)かを示す。リンク切れに備え、発行者・文書名・日付を本文でも残している。

  1. Baidu, Inc.(企業公式IR)Baidu Announces First Quarter 2026 Results(Apollo Go の運行回数・都市数・累計走行距離)2026年5月18日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://ir.baidu.com/news-releases/news-release-details/baidu-announces-first-quarter-2026-results
  2. Pony AI Inc.(企業公式IR)Pony AI Inc. Reports First Quarter 2026 Financial Results(車両台数・Robotaxi売上)2026年5月26日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://ir.pony.ai/news-releases/news-release-details/pony-ai-inc-reports-first-quarter-2026-financial-results
  3. WeRide Inc.(企業公式IR)WeRide 1Q2026 Earnings(Robotaxi 台数・展開都市数)2026年5月/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://ir.weride.ai/
  4. Caixin GlobalChina Robotaxi Firms Expand Fleets Despite Regulatory Pause2026年5月28日/区分:二次/参照日 2026年7月30日https://www.caixinglobal.com/2026-05-28/china-robotaxi-firms-expand-fleets-despite-regulatory-pause-102448697.html
  5. 中華人民共和国工業和信息化部《关于开展智能网联汽车准入和上路通行试点工作的通知》(工信部联通装〔2023〕217号。工業和信息化部・公安部・住房和城郷建設部・交通運輸部)発布 2023年11月17日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.miit.gov.cn/zwgk/zcwj/wjfb/tz/art/2023/art_b2ce7f0bb04d47e8b0e2ba2bb9d5b8e5.html
  6. 武漢市人民政府武漢経済技術開発区による全無人・有料の商業運営許可(軍山新城 13km²・5台。「车内无人的自动驾驶付费出行服务」)2022年8月8日/区分:一次/参照日 2026年7月30日http://www.wuhan.gov.cn/
  7. 北京市人民政府《北京市自动驾驶汽车条例》(全7章48条)可決 2024年12月31日/施行 2025年4月1日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.beijing.gov.cn/
  8. 警察庁特定自動運行の許可制度(改正道路交通法・令和4年法律第32号。許可権者は都道府県公安委員会)施行 2023年4月1日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/index.html
  9. California Department of Motor VehiclesAutonomous Vehicle Testing Permit Holders / Deployment Permit Holders最終更新 2026年5月20日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.dmv.ca.gov/portal/vehicle-industry-services/autonomous-vehicles/
  10. California Public Utilities Commission(CPUC)Autonomous Vehicle Programs — AV Program Permits Issued参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.cpuc.ca.gov/regulatory-services/licensing/transportation-licensing-and-analysis-branch/autonomous-vehicle-programs

最終更新日:2026年7月30日。このページの記述は同日時点で確認したものである。

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