このページは印刷して会議に持ち込めるように組んである。ブラウザの印刷機能でそのまま出力できる。
一言でいうと
走行距離、介入率、事故率、稼働率。提案書に出てくるこれらの数字は、そのままでは他社と比べられない。何を1件と数えるかの定義が違い、報告する義務の有無が国や州で違い、走った環境が違うからである。
大きい数字が安全を意味するわけでもない。このページでは、それぞれの数字が何を測っているのかと、比較できない理由を示す。
何を解決するために作ったか
数字は説明を短くする。「500万km走行、介入率は8万kmに1回」と言われれば、比較できる指標を受け取ったように感じる。だが実際には、この2つの数字はどちらも定義に依存しており、定義は公開されていないことが多い。
重要なのは、これがベンダーの不誠実さの問題ではないという点である。数字を比較可能にする制度が、そもそも存在しない。しかも制度は縮小する方向に動いている。以下はすべて、規制当局自身が公表している事実である。
規制当局が「比較に使うな」と明記している
米国の2つの制度は、自らのデータについて比較利用を明確に否定している。この2つは、世界で最も整備された自動運転関連の報告制度である。それでもこう書かれている。
NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)
NHTSAは、衝突報告を義務づける命令(Standing General Order)を出している。対象は自動運転システムと、レベル2運転支援システムを搭載した車両である。そのデータについて、次のように注意している。
"Use caution when attempting to compare crash data between entities"
"different reporting entities may have different levels of access to information"
米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)、Standing General Order on Crash Reporting の解説ページ。原文のまま引用。参照日 2026年7月30日。
理由は情報アクセスの非対称である。ある事業者は衝突の直後に車両とセンサのデータを詳細に取得できる。別の事業者は、数日後あるいは数週間後に利用者からの申告で初めて衝突を知る。同じ制度の下で報告していても、拾える件数が構造的に違う。
さらにNHTSAは、報告内容が検証済みである必要はないと定めている。
Reporting entities must submit "regardless of whether the reporting entity has verified or agrees with the information."
"Initial reports may reflect incomplete or unknown information"
The summary data "should not be assumed to be statistically representative of all crashes"
同上。原文のまま引用。
つまりこのデータは、母集団を代表していないと発行機関自身が述べている。件数を足し合わせて事業者間で割り算をする使い方は、制度の設計に反する。
California DMV(カリフォルニア州車両局)
カリフォルニア州は長年、自動運転の試験許可保有者に「介入」の年次報告を義務づけてきた。そのデータについて、州自身が次のように明記している。
these reports "are not designed for comparative analysis across companies"
"Companies are required to report public road testing; activities on private roads, out-of-state testing, or any testing of vehicle automation systems below Society of Automotive Engineers (SAE) Level 3, as well as simulation testing, are not included in these reports."
California Department of Motor Vehicles、ニュースリリース、2026年2月20日。原文のまま引用。
報告の対象は州内の公道走行に限られる。私有地、州外、シミュレーション、レベル3未満の試験は含まれない。どこで開発しているかによって、報告される走行距離の割合が変わる。
介入率:定義が「安全上必要だったか」で線を引いている
カリフォルニア州の規則における「介入(disengagement)」の定義は次のとおりである。
"disengagement" means "a deactivation of the autonomous mode when a failure of the autonomous technology is detected or when the safe operation of the vehicle requires that the autonomous vehicle test driver disengage the autonomous mode and take immediate manual control of the vehicle, or in the case of driverless vehicles, when the safety of the vehicle, the occupants of the vehicle, or the public requires that the autonomous technology be deactivated."
California Code of Regulations, Title 13, §227.50(a)。原文のまま引用。2026年4月28日効力発生の改正により削除された。
線引きは「技術的な故障が検知されたか」または「安全上必要だったか」である。運転手が裁量で解除した場合は、報告の対象にならない。ここが最も重要な点である。何が「安全上必要」だったかを判断するのは、報告する事業者自身である。判断の基準が事業者ごとに違えば、同じ運転から違う介入回数が生まれる。
そしてこの制度は2026年4月に廃止された
介入報告の義務そのものが消えた
カリフォルニア州DMVは2026年4月28日に効力が発生した規則改正で、介入報告の義務を廃止した。州が示した理由は次のとおりである。
"The department no longer considers disengagements the most meaningful metric of automated driving system safety performance"
"disengagements frequently occur for discretionary or routine operational reasons that are not necessarily indicative of a failure"
California DMV、Final Statement of Reasons。原文のまま引用。原本PDFでの逐語照合は行っていない。
州自身が「介入は裁量的・日常的な理由で頻繁に起きるものであり、必ずしも不具合を示さない」と述べている。つまり介入率という指標は、その最大の供給源だった制度から、有効な安全指標ではないという理由で外された。
代わりに導入されたのは、4種類の月次報告である。動的運転タスクに関係するシステム故障、車両の動作不能(immobilization)、急制動(減速3 m/s以上)、そして走行距離である。これらは介入率と互換性がない。2026年より前の介入率と、2026年以降の新指標を並べて時系列で比べることはできない。
走行距離:分母が何かで意味が変わる
走行距離の数字から言えること
- その事業者が、その環境で、その期間に、どれだけ運行を継続したか
- 同一事業者の年ごとの推移(定義と対象範囲が変わっていない場合に限る)
- 運行の規模感(都市数・車両数とあわせて見る場合)
走行距離の数字から言えないこと
- 他社より安全であること。走行環境が違えば難易度が違う
- 走行距離が長いほど成熟していること。単純な環境を長く走ることは可能である
- 公道での距離であること。明示がなければ私有地・テストコース・シミュレーションを含む可能性がある
- 自動運転モードでの距離であること。手動走行を含む場合がある
確認すべきことは3つである。どこを走ったか、どのモードでの距離か、何年間の累計か。この3つが示されていない走行距離は、規模の話であって性能の話ではない。
事故率:報告の義務が国・州で違う
事故の件数は、報告義務の枠組みによって数え方が変わる。同じ出来事が、ある州では報告対象になり、別の州では対象にならない。
| 制度 | 報告のきっかけ | 期限 | 介入の報告義務 |
|---|---|---|---|
| 米国連邦(NHTSA、命令) | 死亡・病院搬送・歩行者等との衝突・エアバッグ展開・牽引を要する損傷のいずれか(重大な類型)。自動運転システムについては1,000ドルを超える物的損害等も対象 | 重大な類型は5暦日以内。より軽微なものは翌月15日まで | なし(衝突の報告制度である) |
| 米国 California(州規則) | 州内公道での衝突 | 10日以内 | 2026年4月28日に廃止。以後はシステム故障・動作不能・急制動・走行距離の月次報告に置き換え |
| 米国 California(CPUC、旅客輸送) | 四半期ごとの運行データ(走行距離、乗車人数、待機時間、車椅子対応の要請と充足)。四半期300トリップ超の事業者は停止事象のデータも | 四半期 | 停止事象(stoppage events)として報告。介入とは定義が違う |
| 米国 Nevada(州法) | 人身傷害、または750ドルを超える物的損害を生じた衝突 | 10営業日以内 | 存在しない |
| 米国 Texas(州法) | 2025年9月1日から州の認可制。衝突報告は州交通法典第550章の遵守義務として規定 | 州交通法典の定めによる | 確認できない |
| 日本 | 特定自動運行の許可制度が2023年4月1日に施行されている(許可権者は都道府県公安委員会) | 報告の期限・報告先を条文レベルで確認できていない | 確認できない |
米国では報告項目が縮小の方向に動いている
NHTSAは2026年3月4日の連邦官報告示で、衝突報告の情報収集を「修正を伴う延長」として告示した。修正の内容は次のとおりである。
- 従来あった24時間報告を廃止し、最短を5日報告にした
- 複数の事業者による同一衝突の重複報告を廃止した
- 衝突がなかった月の「ゼロ報告」義務を廃止した
- 電子フォームから重要度の低い項目を削除した
年間の負担時間は31,319時間から19,208時間へ削減されている。
あわせて、AV STEP が撤回された。自動運転車の安全性と情報開示について、事業者が任意で参加する監督の枠組みとして提案されていたものである。規則案は2025年1月15日に公示されたが、2026年6月26日に撤回された。規則としては成立していない(正式名称は出典欄に記載した)。
この事実は、報告データを扱うときの前提を変える。公開される情報の量は、技術の成熟とともに増えるとは限らない。
稼働率と運行回数:企業が公表する軸が揃っていない
ロボタクシー事業者3社の2026年第1四半期の公式開示を並べると、公表している項目が食い違っていることが分かる。
| 事業者 | 公表しているもの | 公表していないもの |
|---|---|---|
| Baidu(Apollo Go) | 完全無人の運行回数(四半期320万回)、3月のピーク週(35万回超)、累計運行回数(2026年4月時点で2,200万回超)。累計自動運転走行距離は3億3,000万km超(うち完全無人2億2,000万km超)、展開都市数は2026年5月時点で27都市 | 車両台数、都市別の内訳、Apollo Goの売上高、1回あたりのコスト、有人監視付き運行と完全無人の比率 |
| Pony.ai | 車両台数は2026年5月24日時点で1,700台超、年末目標3,500台超。ほかにRobotaxi売上(860万米ドル、前年同期比+395.4%)、有料注文の伸び率 | 運行回数の絶対値、1台あたりの1日注文数、都市別の車両配分、1回あたり平均運賃、安全指標 |
| WeRide | 車両台数は2026年4月30日時点でRobotaxi約1,300台、L4全体で約2,800台。ほかに展開(12カ国・40都市以上)、四半期売上(1億1,400万人民元、前年同期比+58%) | 運行回数、有料運行回数、1回あたり売上、都市別の車両配分、車両稼働率、安全データ |
この3社の稼働率は、原理的に比較できない
稼働率を出すには、運行回数を車両台数で割る必要がある。ところがBaiduは運行回数を出して台数を出さず、Pony.aiとWeRideは台数を出して運行回数の絶対値を出さない。公表軸が逆になっている。
したがって、この3社について1台あたりの稼働状況を比べることは、公表情報の範囲では不可能である。それぞれの数字は正確でありうるが、割り算が成立しない。「業界最大規模」という表現が出てきたら、何を分子と分母にしたのかを尋ねる必要がある。
公開されている報告書にも欠損がある
カリフォルニア州CPUCは、旅客輸送の許可保有者に四半期報告を義務づけ、その報告書を公開している。ただし事業者が機密指定を主張した項目は、州の一般命令(General Order 66-D)に基づいて黒塗りされる。CPUC自身が、公開版について次のように記載している。
"fields subject to confidentiality claims are currently redacted in the public reports posted here"
California Public Utilities Commission、Autonomous Vehicle Programs ページ。原文のまま引用。参照日 2026年7月30日。
結果として、公開版の四半期報告は事業者ごとに欠損している項目が違う。同じ制度の下の報告書であっても、揃った表を作ることはできない。
日本の数字について確認できたこと
日本には、許可の一覧に相当する公開データセットが見つからない
カリフォルニア州は、試験許可・無人試験許可・商用配備許可のそれぞれについて、許可を得ている事業者の一覧を州のサイトで公開している。CPUCも旅客輸送許可の発給状況を公開している。
日本では、特定自動運行の許可制度が2023年4月1日に施行されている。しかし許可の累計件数、および許可を得ている事業者の一覧は、2026年7月30日時点で確認できなかった。警察庁の自動運転関連ページに掲載されているのは、申請書の記載要領と調査研究報告書等である。
これは評価ではなく、確認結果である。公開された一覧が存在しないため、日本国内の自動運転サービスについて、件数・稼働状況・事故率を外部から集計することができない。比較したくてもできないのではなく、集計の前提となるデータが公表されていない。
各国の制度の状況は世界の基準と、日本で確認できることで並べている。
数字を受け取ったときの確認手順
提示された数字について、次の5つを順に確認する。1つでも答えられない場合、その数字は他社との比較に使えない。
- 定義:何を1件と数えたか。定義は文書になっているか。
- 母数:分母は何か。分母に含めていないものは何か。
- 環境:どこを走った数字か。公道か。ODDは何だったか。
- 期間と時点:いつからいつまでの数字か。定義は期間中に変わっていないか。
- 報告先:義務のある制度に基づいて報告された数字か、社内集計か。第三者が検証したか。
決着していない論点:安全性を統計的に証明する方法
自動運転が人間の運転より安全であることを統計的に示すには、極めて長い走行距離が必要になるという指摘が、以前から研究者によって行われている。死亡事故のような稀な事象について有意な差を示すには、現実的でない距離が要求されるという議論である。
この問題に対する合意された解決方法は、2026年7月時点で存在しない。シナリオベースの検証、シミュレーション、安全論証といった手法が用いられている。ただしそれらが統計的な立証の代わりになるかどうかは、業界内で決着していない。カリフォルニア州が介入報告を廃止し、より運用に近い指標へ切り替えたことも、この論点が動いていることの一つの現れである。
したがって「安全であることが数字で証明された」という説明は、2026年7月時点ではどの事業者についても成立しない。これはどこかの会社の問題ではなく、方法が確立していないという業界共通の状態である。
出典
一次情報を優先している。「区分」は、その資料が発行機関自身の公表物(一次)か、第三者による索引・複製(ミラー)か、解説(二次)かを示す。リンク切れに備え、発行者・文書名・日付を本文でも残している。
- 米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)Standing General Order on Crash Reporting(第3次修正)https://www.nhtsa.gov/laws-regulations/standing-general-order-crash-reporting
- 米国連邦官報Agency Information Collection Activities; Incident Reporting for Automated Driving Systems and Level 2 Advanced Driver Assistance Systems(FR Doc 2026-04240、OMB 2127-0754)https://www.federalregister.gov/documents/2026/03/04/2026-04240/agency-information-collection-activities-notice-and-request-for-comment-incident-reporting-for
- California Department of Motor VehiclesAutonomous Vehicles Rulemaking Actions(規則制定ファイル OAL 2025-0415-04、効力発生 2026年4月28日)https://www.dmv.ca.gov/portal/vehicle-industry-services/autonomous-vehicles/autonomous-vehicles-rulemaking/
- California Department of Motor Vehiclesニュースリリース:2024年12月〜2025年11月を対象とする自動運転車の年次報告の公表https://www.dmv.ca.gov/portal/news-and-media/
- California(州規則)California Code of Regulations, Title 13, §227.50「Reporting Disengagement of Autonomous Mode」(2026年4月28日効力発生の改正により削除)https://www.law.cornell.edu/regulations/california/13-CCR-227-50
- California Public Utilities Commission(CPUC)Autonomous Vehicle Programs — AV Program Permits Issuedhttps://www.cpuc.ca.gov/regulatory-services/licensing/transportation-licensing-and-analysis-branch/autonomous-vehicle-programs
- California Public Utilities Commission(CPUC)Decision 20-11-046(Phase I Deployment Programs。運賃徴収を認める)https://docs.cpuc.ca.gov/PublishedDocs/Published/G000/M352/K627/352627090.PDF
- Nevada LegislatureNevada Revised Statutes Chapter 482A(§482A.070(2)・§482A.080(2)(b)・§482A.095)https://www.leg.state.nv.us/NRS/NRS-482A.html
- Texas Legislature OnlineSenate Bill 2807(第89議会。2025年9月1日からTxDMVによる認可制)https://capitol.texas.gov/BillLookup/History.aspx?LegSess=89R&Bill=SB2807
- Baidu, Inc.(企業公式IR)Baidu Announces First Quarter 2026 Results(Apollo Go の運行回数・都市数・累計走行距離)https://ir.baidu.com/news-releases/news-release-details/baidu-announces-first-quarter-2026-results
- Pony AI Inc.(企業公式IR)Pony AI Inc. Reports First Quarter 2026 Financial Results(車両台数・Robotaxi売上)https://ir.pony.ai/news-releases/news-release-details/pony-ai-inc-reports-first-quarter-2026-financial-results
- WeRide Inc.(企業公式IR)WeRide 1Q2026 Earnings(Robotaxi 台数・展開都市数)https://ir.weride.ai/
- Caixin GlobalChina Robotaxi Firms Expand Fleets Despite Regulatory Pausehttps://www.caixinglobal.com/2026-05-28/china-robotaxi-firms-expand-fleets-despite-regulatory-pause-102448697.html
- 警察庁特定自動運行の許可制度(改正道路交通法・令和4年法律第32号。許可権者は都道府県公安委員会)https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/index.html
- 福井県永平寺町自動運転車の運行について(レベル4・車両内無人。大人100円/中学生以下50円。運行主体はまちづくり株式会社ZENコネクト。車両の保証・保守期間が令和8年3月末で満了し、4月1日以降は当面運休)https://www.town.eiheiji.lg.jp/
最終更新日:2026年7月30日。このページの記述は同日時点で確認したものである。
