GREEN TECHNOLOGY. BLUE

経路教示・仮想レール方式

人が教えた1本の線をなぞる。確実にしているのは位置であって、前方の障害物ではない。

一言でいうと

まず人が車を運転して1本の道筋を記録し、以後はその線をなぞって走る方式である。線から外れないことを安全の根拠にしている

導入時に経路を教える作業が必要で、経路を変えるたびにその作業をやり直す。

何を解決するために生まれたか

「どこを走るか」と「前に何があるか」は別の問題である。この方式は前者を設計時に解いてしまう。走行時に解くべき問題を減らすためである。

効果は大きい。経路が固定されていれば、位置推定の不確かさは極端に小さくなる。カメラが逆光で見えなくても、LiDARが霧で使えなくても、路面のマーカーは変わらずそこにある。

ロボティクスの分野では、この考え方は以前から定式化されている。人が一度運転して経路を記録し、以後その線をなぞる方式は「visual teach and repeat」として文献がある。ただし本調査では当該論文の本文と数値を取得できなかった

仕組み

日本で使われている誘導の方式は主に2つである。

表:日本で使われている2つの誘導方式と、公表されている仕様。
方式仕組み公表されている性能
電磁誘導線路面に敷いた線に通電し、その磁界を車が検出して辿る。RFIDを併用して区間を識別する福井県永平寺町の事例で最高12km/h以下
磁気マーカー路面に設置した磁気マーカーが出す微弱な磁気を、車底の高感度センサが検出する開発企業の公表で位置検出精度±5mm、時速200kmまで追従可能。設置間隔は初期実証で2m、直線の高速走行部で10mの実績

磁気マーカーの寸法は、貼付型が100Φ×3.5mm(磁性体は100Φ×2mm)、埋設型が30Φ×20mmと公表されている。マーカーの磁力については半永久的と考えているとし、適切に施工されていれば交換は不要と記載している。

環境耐性についても記載がある。水も氷も物理的に影響がなく、積雪時も問題なく機能するとしている。ただしRFIDについては、特定の量の水没で読み出しが難しくなる場合があると但し書きがある。

衛星測位が届かない場所での動作も、この方式の主要な利点として説明されている。トンネル・地下、ビル街のマルチパスが発生する場所、LiDARが正確に動作しない霧の中が挙げられている。

できること/できないこと

できること

  • 天候に左右されずに自分の位置を知る
  • トンネル・地下など衛星測位が届かない場所で走行する
  • 積雪や霧でカメラ・LiDARが機能しない条件で位置を保持する
  • 挙動が予測しやすく、行政手続と住民説明がしやすい

できないこと

  • 敷設していない経路を走ること
  • 経路を変えること(物理的な工事が必要になる)
  • 前方の障害物を避けること。位置は分かっても、前に何があるかは別の問題である
  • 路上駐車や除雪した雪を回避すること。停止または手動介入になる

トレードオフ

この方式が確実にしているのは「自分がどこにいるか」であって「前に何があるか」ではない

国土交通省道路局が公表した実証の集計に、次の数値がある。路上駐車に遭遇した183回のうち169回が回避困難積雪に遭遇した55回のうち41回が幅員の減少により停止。ほかに対向車対応75回、歩行者・自転車の回避183回が記録されている。

国土技術政策総合研究所の報告も、同様の課題を挙げている。

  • 道路脇へ除雪した雪が走路の障害になる
  • 沿道の植栽・雑草を検知して停止または手動回避になる
  • 路上駐車車両を検知して停止または手動回避になる
  • 歩道がなく路肩も狭い区間で、歩行者・自転車を検知して停止する

つまり経路を固定しても、経路上の障害物の問題は残る

もうひとつの代償は、経路が資産であると同時に負債になることである。敷設したインフラは道路工事や路面の切削で失われうる。誰が維持し、失われたときに誰が費用を負担し、その間サービスは止まるのかが契約時の論点になる。

実際に使われている例

表:公表資料で確認できる国内の運用例(2026年7月30日時点)。
場所方式と条件現状
福井県永平寺町電磁誘導線とRFID。約2km区間、定員7名、最高12km/h以下。遠隔監視1名が最大3台。3D-LiDARとSLAM、RTK測位は補完技術として位置づけ車両の保証・保守期間が令和8年3月末で満了したため、2026年4月1日以降は当面運休
JR東日本 気仙沼線BRT磁気マーカーを約2mごと、RFIDを約10mごとに埋設。専用道 約15.5km、最高速度約60km/h2026年5月8日発表。2026年5月29日〜7月4日の毎週金・土 計14日間の実施
秋田県上小阿仁村電磁誘導線。最高12km/h、定員5人、運賃200円2019年11月30日に本格運行開始

国土技術政策総合研究所の整理では、方式によって走行速度が明確に分かれている。電磁誘導線が約12km/h、磁気マーカーとGPS/ジャイロの組み合わせが約35km/h(最高40km/h)である。

気仙沼線BRTの約60km/hは専用道での実績であり、一般公道での実績ではない。この区別は重要である。

公表資料に存在しない数値がある

次の項目について、国内の実証事業報告、企業の公開資料、公的研究機関の報告のいずれからも数値を確認できなかった。

  • 経路教示にかかる作業量(人日、所要日数)
  • 経路変更時の再作業量
  • 磁気マーカーの設置費用(kmあたり、1個あたり)
  • 電磁誘導線の敷設工事量と費用
  • マーカーが故障・脱落・欠損した場合の車両の挙動

これらは総所有コストを左右する項目である。ベンダーに直接聞く以外に知る方法がない

安全保証の観点

この方式の安全論証は比較的組みやすい。経路が固定されているため、起こりうる状況の列挙が現実的な範囲に収まる。ISO 26262 に基づく機能安全の枠組みが、そのまま効く部分が大きい。

ただし経路上の障害物への対応は別問題として残る。ここは ISO 21448(SOTIF)の範囲であり、故障していないのに危険が生じる場合にあたる。上に挙げた実証の集計値は、この部分の実態を示している。

発注・検討するときの確認点

  1. 「経路を1km設定するのに、実際に何日・何人かかりましたか。経路を100m変更する場合、同じ作業をやり直す必要がありますか」

    なぜこれを聞くのか
    この数値は公表資料に存在しない。工事、道路の付け替え、バス停の移設は必ず起きる。
  2. 「誘導インフラの所有者と維持責任は誰ですか。道路工事でマーカーが失われた場合、再設置の費用は誰が負担し、その間サービスは止まりますか」

    なぜこれを聞くのか
    磁力が半永久的であることと、マーカーが物理的にそこに在り続けることは別の話である。
  3. 「提案されている速度は、その方式で公表実績のある速度域に収まっていますか。その実績は専用道ですか、一般公道ですか」

    なぜこれを聞くのか
    公的資料では電磁誘導線が約12km/h、磁気マーカーが約35〜60km/hと一桁の差がある。専用道の実績を一般道に外挿できるかは確認できない。

混同されやすい用語

表:このページで扱った語と、混同されやすい語。詳しい定義は用語集にある。
この語別のこの語違い
経路教示SLAM経路教示は事前に決めた線を辿る。SLAMは走りながら地図を作り自己位置を推定する
電磁誘導線磁気マーカー前者は通電が必要な連続した線、後者は受動的な素子を離散配置する。公表資料では速度域に差がある
位置が確実安全に走れる位置推定の確実性は、前方の障害物への対応を保証しない

出典

一次情報を優先している。「区分」は、その資料が発行機関自身の公表物(一次)か、第三者による索引・複製(ミラー)か、解説(二次)かを示す。リンク切れに備え、発行者・文書名・日付を本文でも残している。

  1. 愛知製鋼株式会社GMPS(Global Magnetic Positioning System)。磁気マーカとMIセンサによる自車位置検知。位置検出精度±5mm、時速200kmまで追従、設置間隔2m〜10mの実績参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.aichi-steel.co.jp/smart/mi/gmps/
  2. 愛知製鋼株式会社GMPSに関するよくある質問(磁力は半永久的と記載。水も氷も物理的に影響がなく積雪時も機能。RFIDは水没で読出しが難しくなる場合あり)参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.aichi-steel.co.jp/smart/mi/gmps/faq.html
  3. 東日本旅客鉄道株式会社気仙沼線BRT 自動運転レベル4走行を実施します(柳津駅〜水尻川AP 約15.5km、最高速度約60km/h、磁気マーカを約2mごと・RFIDを約10mごとに埋設。専用道)2026年5月8日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.jreast.co.jp/press/2026/20260508_ho02.pdf
  4. RoAD to the L4(経済産業省・国土交通省)【福井県永平寺町】遠隔監視のみ(レベル4)自動運転サービス(車両ヤマハAR-07・定員7名・最高12km/h以下、電磁誘導線とRFID、遠隔監視1名が最大3台、運行47日・延べ1,700km・乗客1,168名)2024年2月28日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/theme01/pdf/20240228_theme01.pdf
  5. 福井県永平寺町自動運転車の運行について(レベル4・車両内無人。大人100円/中学生以下50円。運行主体はまちづくり株式会社ZENコネクト。車両の保証・保守期間が令和8年3月末で満了し、4月1日以降は当面運休)参照日 2026年7月30日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.town.eiheiji.lg.jp/
  6. 国土技術政策総合研究所地方部の自動運転の実装に向けた課題(方式別の走行速度、除雪した雪・沿道の植栽・路上駐車による停止や手動介入)2019年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.nilim.go.jp/lab/qcg/japanese/3paper/pdf/2019_3.pdf
  7. 国土交通省道路局道路局における自動運転の取組について(実証の手動介入実数:路上駐車183回中169回が回避困難、積雪55回中41回が幅員減少により停止)2020年12月23日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/mini_symposium/20201223/02_01kokkousyou_kouennsiryou.pdf
  8. Cadena, C. ほか/IEEE Transactions on Robotics 32(6):1309–1332(査読誌)Past, Present, and Future of Simultaneous Localization and Mapping: Toward the Robust-Perception Age(地図の長期維持を未探究の課題と位置づけ、外れ値1つで推定が劣化する脆さを指摘)2016年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://arxiv.org/abs/1606.05830
  9. 国際標準化機構(ISO)ISO 26262-1:2018 Road vehicles — Functional safety(第2版。第3版が改訂作業中)2018年12月17日/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.iso.org/standard/68383.html
  10. 国際標準化機構(ISO)ISO 21448:2022 Road vehicles — Safety of the intended functionality(SOTIF)2022年/区分:一次/参照日 2026年7月30日https://www.iso.org/standard/77490.html

最終更新日:2026年7月30日。このページの記述は同日時点で確認したものである。

関連するページ